「イグノーベル賞」という名前を聞いて、「ノーベル賞と何が違うの?」「変わった研究に贈られる賞?」と疑問に思ったことがある人もいるでしょう。
イグノーベル賞(Ig Nobel Prize)は、ユーモアを感じさせながら、人々に科学や社会について考えるきっかけを与える研究や業績をたたえる賞です。
一見すると風変わりな研究が数多く選ばれますが、単に「面白い研究」を表彰しているわけではありません。
この記事では、イグノーベル賞の意味や歴史、ノーベル賞との違い、日本人の代表的な受賞例などをわかりやすく解説します。
イグノーベル賞とは
イグノーベル賞は、1991年にアメリカで始まった賞です。科学ユーモア雑誌『Annals of Improbable Research(AIR)』の編集者として知られるマーク・エイブラハムズによって創設されました。
イグノーベル賞では、「人々を笑わせ、そして考えさせる」ような研究や業績が表彰されます。
そのため、研究テーマだけを見ると冗談のように感じられるものも少なくありません。しかし、その研究方法や成果を見ると、科学的な手法によって真剣に検証されているものがあります。
普段なら見過ごしてしまうような疑問に着目し、それを科学的に追究する姿勢もイグノーベル賞の大きな魅力です。
「イグノーベル」という名前の意味
「Ig Nobel」という名称は、「ignoble」という英単語と「Nobel」を組み合わせた言葉です。
英語の「ignoble」には「高潔でない」「卑しい」といった意味があります。
「Nobel Prize(ノーベル賞)」を連想させる言葉遊びになっており、賞そのもののユーモラスな性格を表しています。
ただし、受賞者や研究そのものを侮辱することを目的とした賞ではありません。独創的な発想や研究を通じて、科学への関心を高めることが重要な特徴です。
イグノーベル賞とノーベル賞の違い
イグノーベル賞とノーベル賞は名前が似ていますが、別の賞です。
ノーベル賞は、アルフレッド・ノーベルの遺言をもとに創設された国際的な賞です。物理学、化学、生理学・医学、文学、平和、経済学の各分野で、重要な功績を残した人物や団体などが表彰されます。
一方、イグノーベル賞は1991年に始まった独立した賞で、ノーベル財団が運営しているものではありません。
評価される研究の方向性も異なります。
イグノーベル賞では、ユーモアや意外性があり、それと同時に「考えさせられる」研究や業績が選ばれます。
興味深いのは、本物のノーベル賞受賞者がイグノーベル賞の授賞式に参加し、受賞者へ賞を渡すことがある点です。
ノーベル賞とは正式には別の賞でありながら、科学者たちがユーモアを楽しむ場として独特の文化を形成しています。
イグノーベル賞ではどんな研究が受賞する?
イグノーベル賞では、物理学、化学、生物学、医学、心理学、経済学など、さまざまな分野に関連する研究や業績が選ばれてきました。
部門は毎年完全に固定されているわけではなく、その年の受賞対象に応じた名称の賞が設けられることもあります。
過去の受賞研究を見ると、「そんなことまで研究するのか」と驚くようなテーマが数多くあります。
しかし、身近な現象や一見くだらなく思える疑問であっても、科学的に検証することで新しい知見が得られる場合があります。
この「意外な疑問を真剣に調べる」という姿勢こそ、イグノーベル賞を象徴する特徴の一つです。
日本人による代表的なイグノーベル賞受賞例
日本の研究者は、イグノーベル賞で数多く表彰されてきました。
代表的な例をいくつか紹介します。
バナナの皮が滑りやすい理由
2014年には、北里大学の馬渕清資教授らの研究チームが物理学賞を受賞しました。
研究チームは、バナナの皮を踏んだときの摩擦について実験し、その滑りやすさを科学的に調べました。
「バナナの皮で滑る」という漫画やコメディではおなじみの現象を、本格的な摩擦の研究対象にしたことが大きな特徴です。
股のぞきによる見え方の変化
2016年には、立命館大学の東山篤規教授と大阪大学の足立浩平教授が知覚賞を受賞しました。
研究対象となったのが、脚の間から後方を見る「股のぞき」です。
股のぞきをすると、通常の姿勢で見る場合と比較して、対象の大きさや距離の感じ方などが変化する現象について研究しました。
ユニークな姿勢を利用しながら、人間の視覚や知覚の仕組みに迫った研究です。
たまねぎで涙が出る仕組み
2013年には、日本の研究者を含むチームが化学賞を受賞しました。
たまねぎを切った際に涙を誘発する物質が生成される仕組みについて研究し、その過程に特定の酵素が関係していることを明らかにしました。
日常生活で多くの人が経験する「なぜたまねぎを切ると涙が出るのか」という疑問を、化学的に追究した研究です。
イグノーベル賞は「くだらない研究の賞」ではない
イグノーベル賞は、しばしば「くだらない研究に贈られる賞」のように紹介されます。
しかし、この説明だけでは賞の本質を正確に表しているとはいえません。
重要なのは、「笑わせる」だけではなく「考えさせる」という点です。
研究テーマがユニークでも、その背景には科学的な問題意識があります。
たとえば「バナナの皮はなぜ滑るのか」という疑問は、一見すると単なるジョークのように見えます。しかし、実際には摩擦や潤滑といった物理現象を理解する研究につながります。
身近な疑問を科学的に検証することは、科学研究の基本的な姿勢の一つでもあります。
イグノーベル賞が人気を集める理由
科学研究というと、専門的で難しいイメージを持つ人もいるでしょう。
イグノーベル賞で取り上げられるテーマには、動物の行動、食べ物、人間の身体、日常生活など、一般の人でもイメージしやすいものが多くあります。
そのため、専門知識がなくても「なぜそんなことを研究したのだろう?」という興味から科学の世界に入ることができます。
そして研究内容を詳しく知ると、身近な現象にも複雑な科学的メカニズムが存在することに気付かされます。
笑いを科学への入口として利用している点が、イグノーベル賞が世界的に知られている理由の一つです。
素朴な疑問も立派な研究テーマになる
イグノーベル賞の受賞研究から分かるのは、科学の研究対象に必ずしも壮大なテーマが必要なわけではないということです。
「なぜ滑るのか」「なぜそう見えるのか」「なぜ動物はこのような行動をするのか」といった身近な疑問も、研究の出発点になります。
重要なのは、その疑問に対して観察や実験を行い、客観的なデータを集め、科学的な方法で検証することです。
一見すると役に立たないように見える研究から、新しい知識や技術につながる可能性もあります。
イグノーベル賞は、こうした科学研究の自由さや奥深さを一般の人に伝える役割も果たしています。
まとめ
イグノーベル賞は、1991年に始まった「人々を笑わせ、そして考えさせる」研究や業績をたたえる賞です。
ノーベル賞とは別の賞であり、ノーベル財団が運営しているものではありません。
バナナの皮の滑りやすさや股のぞきによる知覚の変化など、一見すると風変わりなテーマが科学的に研究され、実際に受賞しています。
イグノーベル賞の面白さは、単なるジョークではなく、笑いをきっかけに「なぜそうなるのだろう?」と考えさせてくれるところにあります。
普段なら見過ごしてしまう身近な現象にも研究の種は存在します。イグノーベル賞は、科学における好奇心や発想の自由さを象徴するユニークな賞といえるでしょう。


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