企業が扱うデータは、基幹システムやクラウドサービス、データウェアハウス、データレイクなど、さまざまな場所に分散しています。こうしたデータを効率的に連携し、必要なときに活用できる環境を実現するためのアーキテクチャとして注目されているのが「データファブリック(Data Fabric)」です。
データファブリックは、単に大量のデータを1か所へ集約する仕組みではありません。異なるシステムや環境に存在するデータを横断的につなぎ、発見・統合・管理・利用しやすくすることを目的としています。
本記事では、データファブリックの意味や仕組み、導入するメリット、データレイクやデータメッシュとの違いについて解説します。
データファブリックとは
データファブリックとは、オンプレミスやクラウドなど複数の環境に分散しているデータを統合的に管理し、利用しやすくするためのデータアーキテクチャです。
「Fabric」には「織物」や「布」という意味があります。複数の場所に存在するデータやシステムを、布を織るようにつなぎ合わせて利用できる環境を構築するというイメージから、データファブリックと呼ばれています。
企業では、顧客情報はCRM、売上情報は基幹システム、Webサイトの行動履歴はクラウド、分析用データはデータウェアハウスといったように、データが分散しているケースが珍しくありません。
データファブリックでは、このように分散したデータを必ずしも物理的に1か所へ移動させるのではなく、データ統合やメタデータ管理などの技術を組み合わせ、必要なデータへアクセスして活用できる環境を構築します。
データファブリックが注目される背景
データファブリックが注目される背景には、企業が保有するデータの増加とIT環境の複雑化があります。
従来は、企業内のシステムを自社のデータセンターなどで運用するオンプレミス環境が一般的でした。しかし、現在ではクラウドサービスやSaaSの普及により、複数のクラウドとオンプレミスを組み合わせるハイブリッドクラウドや、複数のクラウド事業者を利用するマルチクラウド環境も広く利用されています。
その結果、データの保存場所や形式が分散し、必要なデータを探したり、システム間で連携したりする作業が複雑になっています。
データファブリックは、このような分散したデータ環境を横断的につなぎ、データ活用の複雑さを軽減するための考え方として利用されています。
データファブリックを構成する主な要素
データファブリックは単一の製品や技術を意味するものではありません。複数のデータ管理技術や機能を組み合わせて構築されます。
代表的な要素の一つが「データ統合」です。データベース、業務システム、クラウドサービスなどから必要なデータを取得し、分析や業務で利用できるように連携します。
「メタデータ管理」も重要です。メタデータとは、データの種類、保存場所、形式、更新日時、関連性など、データについて説明する情報です。メタデータを適切に管理することで、必要なデータを発見しやすくなります。
さらに、組織内のデータを検索・把握するための「データカタログ」、品質を維持するための「データ品質管理」、適切な利用ルールを設定する「データガバナンス」なども重要な要素です。
APIやデータ仮想化などを利用して、複数のシステムに存在するデータへアクセスできる環境を構築する場合もあります。
AIや機械学習との関係
データファブリックでは、AIや機械学習を利用してデータ管理を効率化する場合があります。
特に重要なのが「アクティブメタデータ」と呼ばれる考え方です。単にメタデータを保存するだけではなく、データの利用状況や関係性などを継続的に収集・分析し、データ統合や管理の自動化に役立てます。
例えば、どのデータが頻繁に利用されているのか、データ同士にどのような関連性があるのか、どの処理を自動化できるのかといった情報を分析することで、データ管理業務を効率化できます。
ただし、AIや機械学習の利用そのものがデータファブリックの必須条件というわけではありません。データファブリックは、データ統合、メタデータ管理、ガバナンスなどを組み合わせた包括的なアーキテクチャとして捉えることが重要です。
データファブリックのメリット
データファブリックを構築する大きなメリットは、分散したデータを活用しやすくなることです。
複数のシステムから必要なデータを探して個別に連携する負担を軽減できれば、データ分析や業務システム開発を効率化できます。
また、データの所在や意味、品質、利用権限などを一元的または統合的に把握しやすくなるため、データガバナンスの強化にもつながります。
さらに、オンプレミスとクラウドが混在する環境でも統一的なデータアクセスの仕組みを構築できるため、ハイブリッドクラウドやマルチクラウドとの相性が良い点も特徴です。
生成AIや機械学習などで企業データを利用する場合にも、必要なデータを適切に発見・統合・管理できる基盤は重要になります。
データファブリックの課題
データファブリックにはメリットがある一方、導入すれば自動的にすべてのデータ問題が解決するわけではありません。
企業によって既存システムやデータ形式、セキュリティ要件、運用方法などが異なるため、実際の環境に合わせた設計が必要です。
また、データ品質が低ければ、データを接続しただけでは有効活用できません。データの重複や欠損、表記の違いなどを適切に管理する必要があります。
アクセス権限、個人情報保護、セキュリティ、データの責任主体などを明確にするデータガバナンスも欠かせません。
そのため、データファブリックは単なるIT製品の導入ではなく、組織全体のデータ管理方針を含めて検討する必要があります。
データウェアハウスとの違い
データウェアハウス(DWH)は、主に分析を目的として複数のシステムからデータを収集・整理・蓄積するためのデータ基盤です。
一方、データファブリックは特定の保存場所そのものを指す概念ではありません。
データウェアハウスを含め、データレイク、業務システム、クラウドサービスなど、複数のデータ環境を横断して接続・管理・活用するためのアーキテクチャです。
そのため、データウェアハウスとデータファブリックは必ずしも競合するものではなく、データファブリックを構成するデータ基盤の一つとしてデータウェアハウスを利用することもできます。
データレイクとの違い
データレイクは、構造化データだけでなく、画像、ログ、文書などを含む多様なデータを大量に保存するためのデータ基盤です。
データレイクが主に「データを保存する場所」としての役割を持つのに対し、データファブリックは「分散したデータをどのようにつなぎ、管理し、利用するか」というアーキテクチャに重点があります。
したがって、データレイクもデータファブリックの中で利用されるデータ基盤の一つになり得ます。
データメッシュとの違い
データファブリックと混同されやすい概念に「データメッシュ(Data Mesh)」があります。
データメッシュは、データ管理を中央組織だけに集中させるのではなく、営業、マーケティング、物流など、それぞれの業務領域を担当するチームが自分たちのデータに責任を持ち、「データプロダクト」として提供することを重視する考え方です。
一方、データファブリックは、メタデータやデータ統合などの技術を活用して、分散したデータ環境を横断的に接続・管理するアーキテクチャに重点があります。
つまり、データメッシュは組織やデータ所有の考え方に重点があり、データファブリックはデータを接続・統合・管理する技術的なアーキテクチャに重点があるという違いがあります。
両者は必ずしも排他的なものではなく、データメッシュの組織的な考え方とデータファブリックの技術的な仕組みを組み合わせることも可能です。
データファブリックの活用例
例えば、小売企業が店舗、ECサイト、アプリなど複数の販売チャネルを運営しているケースを考えてみましょう。
店舗にはPOSデータ、ECサイトには購買履歴やアクセスログ、CRMには顧客情報、問い合わせシステムにはサポート履歴が保存されているとします。
これらのデータを横断的に利用できる環境を構築すれば、店舗とECをまたいだ顧客分析や需要予測、在庫最適化、マーケティング施策などに活用できます。
また、生成AIに社内データを参照させる場合にも、必要な情報を適切に発見し、安全にアクセスできるデータ基盤が重要になります。
データファブリック導入時のポイント
データファブリックを導入する場合、最初から企業内のすべてのデータを統合しようとするとプロジェクトが大規模化する可能性があります。
まずは「顧客データを横断的に分析したい」「データ探索にかかる時間を短縮したい」など、具体的な目的を設定することが重要です。
そのうえで、対象となるデータソースを整理し、メタデータ管理、データ品質、アクセス権限、セキュリティなどのルールを設計します。
技術だけではなく、誰がどのデータに責任を持つのか、どのような条件でデータを利用できるのかといった組織的なデータガバナンスも合わせて整備することが重要です。
まとめ
データファブリックとは、オンプレミスやクラウドなど複数の環境に分散しているデータを横断的に接続・統合・管理し、利用しやすくするためのデータアーキテクチャです。
データ統合、メタデータ管理、データカタログ、データ品質管理、データガバナンスなど、複数の技術や仕組みを組み合わせて構築します。
データウェアハウスやデータレイクが主にデータを蓄積する基盤であるのに対し、データファブリックは複数のデータ環境をどのようにつなぎ、管理・活用するかに重点があります。また、組織やデータ所有の考え方を重視するデータメッシュとも位置付けが異なります。
企業が扱うデータやクラウドサービスが増えるほど、データがどこに存在し、誰が利用でき、どのように連携できるのかを適切に管理する重要性は高まります。データファブリックは、複雑化したデータ環境から必要な情報を効率的かつ適切に活用するためのアプローチの一つです。

コメント