「インクルーシブフード」という言葉を聞いたことがあるものの、具体的にどのような食品を指すのかわからないという人もいるでしょう。
インクルーシブフードは、食物アレルギー、宗教・文化、ライフスタイル、年齢、身体機能などによって生じる食の制約に配慮し、できるだけ多様な人が食事を楽しめるようにするという考え方に関連する言葉です。
この記事では、インクルーシブフードの意味や具体例、注目される背景についてわかりやすく解説します。
インクルーシブフードとは
インクルーシブフード(inclusive food)は、「inclusive(包括的な、包摂的な)」と「food(食べ物)」を組み合わせた表現です。
一般的には、さまざまな食の制約やニーズを持つ人が食事に参加しやすくなるよう配慮された食品や、そうした食のあり方を表す言葉として使われます。
ただし、「インクルーシブフード」という名称について、すべての食品に共通する公的な定義や統一された認証制度が存在するわけではありません。そのため、特定の食品カテゴリーというよりも「食の多様性を受け入れ、できるだけ多くの人が同じ食体験を共有できるようにする」という考え方として捉えるのが適切です。
インクルーシブとはどういう意味?
「インクルーシブ(inclusive)」には、「包括的な」「包摂的な」「排除しない」といった意味があります。
教育や社会福祉、デザインなど、さまざまな分野で使用される言葉です。
食の分野では、特定の条件を持つ人だけを別に扱うのではなく、それぞれの違いに配慮しながら、多様な人が同じ食卓や食事の場に参加しやすい環境をつくるという考え方につながります。
インクルーシブフードの具体例
インクルーシブフードとして考えられる食品や取り組みには、さまざまなものがあります。
食物アレルギーに配慮した食品
卵、乳、小麦など、特定のアレルゲンを使用しないよう設計された食品は、多様な人が食事を共有するための選択肢になります。
ただし、アレルギー対応では原材料だけでなく、製造工程における意図しない混入などにも注意が必要です。
「卵不使用」などの表示がある場合でも、食物アレルギーがある人は原材料表示や注意表示を確認し、自身の状況に適した食品かを判断する必要があります。
ヴィーガン・ベジタリアンに対応した食品
肉や魚を食べないベジタリアンや、原則として動物由来の食品を避けるヴィーガンなど、食生活に関する価値観は人によって異なります。
植物性原材料を中心とした食品は、こうした食生活を選択する人にとって利用しやすい選択肢となります。
大豆などを使用した代替肉や植物性ミルクなども、その一例です。
宗教上の食事規定に配慮した食品
宗教によっては、食べられる食品や調理方法などについて一定の規定があります。
代表的なものとして、イスラム教におけるハラールや、ユダヤ教におけるコーシャがあります。
単純に特定の原材料を使用しなければよいとは限らず、製造・調理方法などにも規定が関係する場合があります。そのため、宗教上の要件に対応していることを示す場合には、個々の基準や認証について正しく確認することが重要です。
グルテンを避ける人に配慮した食品
小麦などに含まれるグルテンを避ける必要がある人や、食生活としてグルテンを控えている人向けに、グルテンを含む原材料を使用しない食品なども販売されています。
ただし、グルテンに関する医学的な制限と、個人のライフスタイルとしての選択は同じものではありません。
また、「小麦不使用」と「グルテンフリー」も必ずしも同じ意味ではないため、必要に応じて表示内容を確認することが大切です。
噛む力や飲み込む力に配慮した食品
高齢者など、噛む力や飲み込む機能に配慮が必要な人向けの食品もあります。
食材をやわらかくしたり、適切な形状やとろみを持たせたりすることで、食べやすさに配慮します。
こうした食品は安全性への配慮が特に重要であり、必要な食形態は個人の状態によって異なります。
インクルーシブフードが注目される背景
現代では、人々の食生活が多様化しています。
食物アレルギーなど健康上の理由だけでなく、宗教、文化、倫理的な価値観、ライフスタイルなどによって食べるものを選択する人もいます。
また、国際化によって異なる食文化を持つ人が同じ学校、職場、地域、観光施設などを利用する機会も増えています。
そのような環境では、全員に同じ料理を提供するだけでは、一部の人が食事を選べない場合があります。
そこで、多様な食のニーズをあらかじめ考慮するという発想が重要になります。
「専用食」と「インクルーシブフード」の考え方の違い
従来は、食事に制限がある人に対して、その人専用の料理を別に用意する方法が一般的でした。
もちろん、アレルギーや嚥下機能など、安全上の理由から個別対応が必要なケースはあります。
一方、インクルーシブな食の考え方では、可能な範囲で最初から多くの人が選択できるメニューを設計するという発想も重視されます。
たとえば、動物性原材料を使用しない料理を一つの通常メニューとして提供すれば、ヴィーガンやベジタリアンだけでなく、それ以外の人も同じ料理を選択できます。
「特定の人だけの特別な料理」ではなく、「さまざまな人が自然に選べる料理」を増やすことが、食のインクルーシブ化につながります。
インクルーシブフードなら誰でも食べられるわけではない
注意したいのは、「インクルーシブフード」という言葉が「すべての人が安全に食べられる食品」を意味するわけではないことです。
人によって避けなければならない原材料や食事条件は異なります。
たとえば、植物性食品であっても大豆やナッツなどのアレルゲンを含むことがあります。また、グルテンフリーの商品であっても、別のアレルゲンが含まれている可能性があります。
一つの食品だけですべての食事制限に対応することは現実的ではありません。
そのため、インクルーシブな食環境をつくるうえでは、対応食品を増やすだけでなく、原材料やアレルゲンなどの情報をわかりやすく提供し、利用者自身が適切な食品を選択できるようにすることも重要です。
飲食店や学校、イベントでも重要になる考え方
インクルーシブな食の考え方は、家庭や食品メーカーだけに関係するものではありません。
飲食店、ホテル、学校、社員食堂、観光施設、イベントなど、多くの人が食事をする場所でも活用できます。
たとえば、メニューに使用原材料や対応可能な食事条件をわかりやすく表示したり、植物性メニューを用意したりすることが考えられます。
ただし、食物アレルギーへの対応については、誤った情報提供や調理時の混入が重大な事故につながる可能性があります。対応できる範囲を明確にし、正確な情報を提供することが不可欠です。
インクルーシブフードとフードダイバーシティ
インクルーシブフードと関連する考え方として「フードダイバーシティ(食の多様性)」があります。
フードダイバーシティは、宗教、文化、健康、思想、ライフスタイルなどによって異なる食習慣や食のニーズが存在することを認識し、その多様性に対応していく考え方です。
食の多様性を認識することがフードダイバーシティだとすれば、その違いを理由に誰かが食事の場から取り残されないよう工夫することが、インクルーシブな食の考え方といえます。
両者は密接に関連しています。
まとめ
インクルーシブフードとは、食物アレルギー、宗教・文化、ライフスタイル、年齢や身体機能など、さまざまな食のニーズに配慮し、多様な人が食事を楽しみやすくするという考え方に関連する言葉です。
食物アレルギーに配慮した食品、植物性食品、宗教上の食事規定に対応した食品、グルテンを避ける人向けの食品、噛む・飲み込む機能に配慮した食品など、さまざまな取り組みが食の包摂性につながります。
ただし、「インクルーシブフード」という名称だけで、すべての人が安全に食べられることが保証されるわけではありません。
重要なのは、一つの食品ですべての人に対応することではなく、多様な選択肢と正確な情報を用意し、それぞれの人が自分に適した食事を選びやすい環境をつくることです。
食生活や価値観が多様化するなか、誰もが食事の場に参加しやすくする「食のインクルーシブ」という考え方は、食品開発や外食、学校、観光など幅広い場面で活用できる考え方といえるでしょう。


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