商業捕鯨とは、クジラを捕獲し、その肉などを販売・利用することを目的として行われる捕鯨です。
日本では長い歴史を持つ捕鯨ですが、国際的な資源保護の動きによって1988年に商業捕鯨を停止しました。その後、日本は国際捕鯨委員会(IWC)から脱退し、2019年7月に商業捕鯨を再開しています。
この記事では、商業捕鯨とは何なのか、日本が商業捕鯨を停止・再開した経緯、現在の捕獲対象、調査捕鯨との違いなどについてわかりやすく解説します。
商業捕鯨とは
商業捕鯨とは、主に商業的な利用を目的としてクジラを捕獲することです。
捕獲されたクジラは食肉などとして利用されます。日本では特に鯨肉を食べる文化があり、地域によっては現在でもクジラ料理が提供されています。
捕鯨には商業捕鯨以外にも、科学的な研究を目的とする捕鯨や、先住民社会の生活・文化に必要な捕鯨などがあります。
そのため、「クジラを捕る行為すべてが商業捕鯨」というわけではありません。
日本における捕鯨の歴史
日本では古くからクジラが利用されてきました。
沿岸部では漂着したクジラを利用するだけでなく、組織的な捕鯨も発達しました。近代になると捕鯨船や捕鯨砲などの技術が導入され、捕鯨産業の規模も拡大していきます。
第二次世界大戦後には食料不足を背景として鯨肉が重要な動物性たんぱく質の供給源となり、学校給食などでも利用されました。
一方、世界的に捕鯨が拡大したことで、一部の鯨種では個体数が大幅に減少しました。
こうした状況を背景として、国際的な鯨類資源の管理が重要な課題となっていきます。
IWCとは
IWCは「International Whaling Commission」の略称で、日本語では「国際捕鯨委員会」と呼ばれます。
1946年に署名された国際捕鯨取締条約に基づいて設立された国際機関です。
国際捕鯨取締条約は、鯨類資源を適切に保存しながら捕鯨産業を秩序ある形で発展させることなどを目的として成立しました。
しかし、捕鯨を取り巻く国際情勢はその後大きく変化します。
鯨類の保護を重視する国が増え、IWCでは捕鯨資源の利用と保護をめぐる議論が続くようになりました。
商業捕鯨が一時停止された理由
IWCは1982年、商業捕鯨の捕獲枠をゼロとする、いわゆる商業捕鯨モラトリアムを決定しました。
この措置は1985年から1986年にかけての捕鯨シーズン以降に適用されました。
日本は当初この決定に異議を申し立てましたが、その後異議を撤回し、1988年に商業捕鯨を停止しました。
背景には、過去の大規模な捕鯨によって一部の鯨類資源が大きく減少したことや、鯨類を保護しようとする国際的な動きがあります。
調査捕鯨とは
商業捕鯨を停止した後、日本は科学的な調査を目的とした捕鯨を行っていました。
これが一般的に「調査捕鯨」と呼ばれるものです。
国際捕鯨取締条約には、加盟国政府が科学的研究を目的とした特別許可を発給できる規定があります。日本はこの規定に基づいて調査捕鯨を実施していました。
しかし、日本の南極海における調査捕鯨については国際的な議論が続きました。
2014年には国際司法裁判所(ICJ)が、日本が南極海で実施していた調査捕鯨「JARPA II」について、国際捕鯨取締条約が定める科学的研究目的の特別許可による捕鯨には該当しないとの判断を示しました。
日本はこの判決を受け入れ、JARPA IIを中止しました。その後、新たな計画による調査捕鯨が実施されています。
日本がIWCから脱退
日本政府は2018年12月、IWCから脱退することを発表しました。
脱退は2019年6月30日に効力を生じ、日本は翌日の2019年7月1日から商業捕鯨を再開しました。
日本政府は、鯨類について科学的根拠に基づき持続可能な形で利用するという立場を示しています。
一方、IWCでは捕鯨をめぐる加盟国間の立場の隔たりが大きく、商業捕鯨の再開について合意形成することが困難な状況が続いていました。
こうした状況の中で、日本はIWCを脱退して商業捕鯨を再開することになりました。
現在の日本の商業捕鯨
日本の商業捕鯨は、2019年の再開以降、日本の領海および排他的経済水域(EEZ)の範囲内で行われています。
日本がIWCに加盟していた時代に実施していた南極海での調査捕鯨とは活動範囲が異なります。
日本政府は科学的な資源評価を基礎として捕獲可能量を設定し、鯨類資源の持続可能性を確保する方針を取っています。
商業捕鯨の再開当初の対象種は、ミンククジラ、ニタリクジラ、イワシクジラの3種でした。
さらに2024年には、ナガスクジラが商業捕鯨の対象に追加されています。
したがって、現在の日本の商業捕鯨では主に次の4種が対象となっています。
| 鯨種 | 商業捕鯨の対象 |
|---|---|
| ミンククジラ | 対象 |
| ニタリクジラ | 対象 |
| イワシクジラ | 対象 |
| ナガスクジラ | 2024年から対象 |
捕獲できる数量は無制限ではなく、鯨種ごとに捕獲可能量が設定されます。
商業捕鯨と調査捕鯨の違い
商業捕鯨と調査捕鯨では、捕鯨を行う目的が異なります。
| 種類 | 主な目的 |
|---|---|
| 商業捕鯨 | 捕獲したクジラを商業的に利用する |
| 調査捕鯨 | 科学的研究を行う |
| 先住民生存捕鯨 | 先住民社会の生活・文化的必要性を満たす |
特に混同されやすいのが商業捕鯨と調査捕鯨です。
商業捕鯨では市場での利用を前提として捕獲が行われます。一方、調査捕鯨は科学的研究を目的として実施されるものです。
捕鯨ではどのようにクジラが利用されるのか
現在の日本では、捕獲されたクジラは主に食用として利用されています。
代表的なのが鯨肉です。
刺身、竜田揚げ、ベーコン、缶詰など、さまざまな形で食べられています。
日本ではクジラを可能な限り無駄なく利用してきた歴史があり、かつては鯨油をはじめ、さまざまな部位が幅広い用途に使われていました。
ただし、現代では石油製品や植物油などの普及によって、鯨油の産業的重要性は過去と比べて大きく低下しています。
商業捕鯨をめぐる考え方
商業捕鯨については国際的にさまざまな考え方があります。
捕鯨を支持する立場では、すべての鯨種を一律に扱うのではなく、資源量を科学的に評価し、持続可能な範囲で利用するべきだという考え方があります。
また、日本などでは捕鯨や鯨食を歴史的な食文化の一つとして捉える考え方もあります。
一方、捕鯨に反対する立場からは、鯨類の保全、動物福祉、生態系への影響などが問題として指摘されています。
捕鯨は単なる水産資源の利用にとどまらず、自然保護、食文化、動物福祉、国際関係など複数の論点が関係する問題となっています。
商業捕鯨は世界中で行われているのか
商業捕鯨を実施している国は限られています。
日本以外では、ノルウェーやアイスランドなどが商業目的の捕鯨を行ってきました。
ただし、それぞれの国で捕鯨の法的な位置付けや対象種、捕獲枠などは異なります。
また、グリーンランドやアラスカなどで行われている一部の捕鯨は、一般的な商業捕鯨とは異なり、先住民生存捕鯨として国際的な枠組みの中で扱われています。
そのため、「クジラを捕獲している国=商業捕鯨国」と単純に分類することはできません。
商業捕鯨とクジラの絶滅問題
「商業捕鯨をするとクジラが絶滅する」と単純に考えるのも正確ではありません。
鯨類には多くの種が存在し、資源状態は種や個体群によって異なるためです。
過去の大規模な捕鯨によって深刻な影響を受けた鯨種や個体群が存在する一方、資源量が比較的多いと評価されているものもあります。
そのため、現代の捕鯨管理では「クジラ全体」という単位ではなく、鯨種や個体群ごとの資源状態を評価することが重要になります。
持続可能な捕鯨を行う場合には、科学的な資源評価と適切な捕獲量の設定、継続的な個体数の監視が不可欠です。
まとめ
商業捕鯨とは、クジラを捕獲し、その肉などを販売・利用することを目的とした捕鯨です。
日本ではIWCによる商業捕鯨モラトリアムを受けて1988年に商業捕鯨を停止しましたが、2019年にIWCから脱退し、同年7月から商業捕鯨を再開しました。
現在は日本の領海および排他的経済水域を中心に、ミンククジラ、ニタリクジラ、イワシクジラ、ナガスクジラが商業捕鯨の対象となっています。
一方で、捕鯨については資源の持続可能な利用を重視する考え方と、鯨類の保護や動物福祉などを重視する考え方があります。
商業捕鯨を理解するためには、「捕鯨に賛成か反対か」という二者択一だけではなく、捕鯨の歴史、IWCの役割、鯨種ごとの資源状態、食文化、国際的な保護政策などを分けて考えることが重要です。


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